物理法則と時間
我々の知る物理法則には時間の矢を含んだものは存在しないことはよく知られている。つまり如何なる物理法則も時間が過去から未来への一方向に限定されると示しているものはない。しかしながらこれは物理法則が時間の向きに対して対称であることを意味しているわけでは無いということには注意する必要がある。つまり時間の矢が逆向きの世界において、物理法則が同じであった場合、我々の世界で起こる物理現象結果を時間反転したものがそのまま時間反転の世界において起こるわけでは無いということだ。床に落ちて割れたコップが時間反転して元のコップに戻ることやリンゴが地面から木の枝に戻ることは物理法則では禁じられていないと言っているひとはこれを勘違いしている。では何故時間に対して物理法則は対象では無いのか。それは力あるいは加速度に時間変数が含まれていないから(、あるいはニュートンの力学理論では二階微分のために時間が負になっても加速度は負にならないため)だ。相対論の記述する時空の曲率、重力場の方程式(アインシュタイン方程式)にも時間変数は含まれていない。これはつまり時間の向きが反対になっても力の向きは逆転したり、重力場が裏返ったりしないことを意味している。速度は時間微分なので時間軸が逆転すれば、逆向きの運動となる。しかし加速度は時間の二階微分なので時間の向きに依存しない。これは実際の運動にどのような影響を及ぼすだろうか。
例えば惑星の周回運動を考える。地球は太陽の周りを一年周期で公転(北半球からみて左回り)しているが、これは時間を反転させるとどうなるか。ほとんどの人がこう答えるだろう。公転の向き、つまり恒星を中心とした回転方向が逆(右回り)になると。つまり向きは逆になるが公転は維持される。これは惑星の運動方向の向き、つまり恒星へ向かう引力と直角方向の速度(角速度)の向きが逆になることを意味し、引力の向きは変わらない事を意味する。もし加速度(この場合は恒星が作用する万有引力)が時間の反転により逆向きになるのであれば、引力は斥力となり地球は太陽から加速度的に離れて行くはずである。しかし我々の知る物理法則はこれを示していない。つまり時間が逆転してもリンゴは木に戻らない。
これらの考察から次のことが言える。つまり時間軸の逆転は、我々の経験が逆向きに準えられることでは無いということだ。ブラックホール内部などで見られる相対論的時間の反転や超光速運動は、過去への時間旅行を意味しているのでは無い。