量子と時間の新たな関係について

量子力学によると位置と運動量を同時に決定することはできない。量子の状態は波動関数で表現され、それは観測時に決定されるであろう位置と運動量の確率分布であると一般には解釈されている。量子状態は観測前には複数の状態の重ね合わせであり、観測によりその状態が一義的に定まる。つまり複数の未来の中から観測が未来を決定するのだ。量子状態において因果律が守られているかどうかは不明だ。因果律は時間が過去から未来へ一方向にのみ進むと認識されている世界ではおよそ破られることは考えられない絶対法則だ。時間が一方通行である限り相互作用は因果律に守られている。しかしもしも量子同士の相互作用というものが量子状態つまり波動性を有した状態で行われているとすれば因果律は守られていない可能性が出てくる。相互作用を想定するのなら、そこに「原因~結果」という時間の流れがあることを同時に想定する必要がある。そして量子力学には時間の不確定性が登場する。これは時間が逆行しうると言う意味を含んでいると解釈可能である。であれば、因果律が守られていないという可能性が出てくる。これは量子もつれの実験系で検証可能である。つまり不可逆反応系で一度解けた量子もつれが復活するかどうかを検証すれば良い。具体的には、相互作用による結果として2つの異なる不可逆反応が起こる量子1と量子2の量子もつれ状態が観測により例えば(A,B)という状態へ収束した後、観測を外し再び観測すると(A’,B’)という別の状態へ変わるということが起こるかどうかを調べれば良い。私はそうならない方に賭けるが。(たとえ上のような結果を得たとしても、複数の相互作用が並行して成立しているといういわば多世界解釈を採用すれば、一応因果律を守ることはできる。つまり時間が逆行したのではなく、別の結果になった別の世界へ遷移したと解釈するのだ。)
量子においても因果律は守られているとした場合の実験的検証の考察を試みたい。多世界解釈を採用しない限り、量子もつれが観測により解消された後に再び相互作用結果のエンタングルメント状態へ戻ることはないだろう。そしてその結果はまた、量子状態における相互作用は起こらないということを意味している。(前章参照)
そもそも量子状態において時間の流れはどうなっているのだろうか。我々は時間は皆平等に流れていると考えている。しかしアインシュタインの一般相対論によりその考えは幻想であることが示された。一方、量子力学は時間の流れに関しては何も言っていない。エネルギーと時間の間の不確定性は示されているが、時間の流れに関しては何も示されていないように見える。だから量子状態を考える時、我々は無意識のうちに量子も我々と同じような時間の流れの中にいると考えている(と思われる)。また時間の不確定性というものを意識したとき、時間は揺らぎあるいは逆行さえしうるのではないかと考える。しかし今、私は新たな仮説として、量子状態と観測者の世界の間における隔絶状態というものを想定した。これは相対論的な断絶、つまりブラックホールの事象の地平におけるような時空間的な断絶状態を考えた。これを想定する限り、時間の流れも断絶していると考える方が自然ではなかろうか。つまり量子状態において、観測者の時間の流れが起きていないのではないか。もっと言えば、観測者から見れば量子状態においては時間は停止しているのではないか。あるいは時間にも最小単位というものが存在するとすれば、その範囲内に留められている。そう考えれば、量子もつれにおいて、相互作用が起こらずに二つの量子が量子状態を維持しているということは理解できる。つまり相互作用が起こる前の時間で留まっているということだ。観測により、観測者の時間軸が量子にも適用されることにより相互作用が生じ、状態が決定するのだ。

以上の私の仮説を「量子の波動的作用仮説」と名付ける。この仮説に関する3つの要素をここにまとめる。
仮説1)量子状態は、我々の時空間とは断絶状態にあり、時間的共有も起きていない。つまり時間発展が相対的に起きていない(=時間が停止している)。
仮説2)量子は我々の時空系内粒子との相互作用(観測もこれに含まれる)により時間発展および波束の収縮が生じる。
仮説3)相互作用と時間発展にはタイムラグがある。

(次章へ続く)

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